□ episode V □    放浪者
  辛い過去の為に心にかげりを帯びていたノーブル祐菜が、ようやく明るく笑える ようになった頃、アヴェン家に突然の訪問者があった。
  アヴェンの兄、ロイムだ。
  いつもどこかを放浪している彼は、今までにもたまにひょっこり姿を現していた のだが、ここ数年は見かけず、だが特に心配もしていなかった人物である。
  久々の再会の挨拶もそこそこに、ロイムは一人の女の子を差し出した。

“しばらく危険な旅に出るんだ。こいつヨロシク”

  そうあっさり言い、彼はまたフラリとどこかへ行ってしまった。
  呆気にとられた一同は、しばし置き去りにされた女の子を前にぽかんと見るしか なかった。

“しばらくお世話になりますねぃ”

  個性的な語尾以外は至極丁寧にお辞儀をして、アヴェン一家を見返す女の子は、mistero と自己紹介した。
  彼女はロイムと、そのどこかの内縁の妻との間にできた子どもだと語った。 母親は亡くなってはいないそうだが、仲違いかなにかで子どもはロイムが引き取 ったようだ。
  そして肝心の父親、ロイムの帰還予定は、未定……らしい。

そんなわけで、アヴェン家にまた一人家族が加わった。
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