□ episode Z □ 料理人 |
”パパ、誕生日おめでとう〜!!” パン、パン、パン、パパン! クラッカーの音が盛大に複数鳴り響いて、アヴェンの鼓膜を揺らした。 驚きで呆然と扉を開けたまま停止してしまった彼に娘たちが歩み寄る。 ”ぱぱ、おめでとう。それから、いつもありがとう!” ”みんなに協力してもらってパーティを企画したんだよっ” ”……パパ??” ぱちくりと瞬きをして辺りを見回したアヴェンの目からホロリと一滴涙が零れ落ちた。 それを見た一同はどっと笑い出し、オロオロする者もいないではなかったが、その他につられてアヴェンが笑い出すと、全員が騒々しさに染まっていった。 今、彼らが集っているのはPeriod+村の一画にある炎戈亭(えんかてい)という料理屋である。 Period+の部隊員たちの食と溜まり場を提供する、村にとって部隊にとってなくてはならない一拠点である。 本日、アヴェンがスカウトのみの隠密任務を終えて家に帰ると、いつもあるはずの出迎えの声がなく、その代わりにリビングのテーブル上に自分に宛てられたメモ書きを見つけた。 『パパへ 任務お疲れ様です。今日は夕飯の用意ができなかったので外食にします。 先にみんなで行っているので、あとから炎戈亭に来てください シレス』 それを受け店に入ったところで、冒頭の騒ぎに戻る。 アヴェンは自分の誕生日を忘れる程のものぐさではなかったが、常と変わらぬ任務をこなすことに忙殺されて、今の今まで意識の隅へと追いやっていたのだった。 感動もひとしおというものである。 その後店の中央に設えられた丸テーブルのケーキ前まで連れていかれ、ろうそくの火を吹き消すという一連の恒例が終わると、あとはただのお祭りへと様変わりしていった。 炎戈亭の店主ソテが大皿料理を一通り出し終えてカウンターにいる数人と話している。 ”ねぇねぇソテぽん。ケーキの他にデザートはぁ?” 祐菜が無邪気に問うと ”飯の後なら何でもいくらでも好きなもん出してやるぞ。何がいい?” ニコニコと応じる。が、 ”じゃあ私、プリンがいい!!” ”プリンはダメだ。全てのプリンは俺のものだからな” さらりと、悪びれもせずソテが返し、むくれる祐菜以外には笑みが広がった。 ”はは、冗談だって。プリンな。他にもたくさん出してやるからとりあえず食って来い” 立食形式の場へと祐菜を行かせる。 入れ替わりにアヴェンがやってきて ”おいらの好物ばかりで嬉しいよ。どうもありがとう” ”お礼なら四姉妹に言いなよ。パパはどれが好きあれはダメとかいちいちチェックいれてきたんだから” 苦笑気味に言われ、厨房であれこれと文句をつける娘たちの姿がありありと想像できた。 アヴェンは嬉しそうに照れた顔をして、 ”おいらは幸せものだな、本当に"”と呟いた。 それから宴は夜中まで続き、次の日の任務に支障が出る者もいたとかいなかったとか・・・。 |
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