□ episode Y □    休日
  メルファリア大陸全土の休日、それは全てのゲブランド帝国民が、そして他4国も一切の戦争をせず体を休める日である。
  その中、アヴェン家は皆でジャコル丘陵へピクニックにやって来ていた。 大陸全土の休日では、Mobすらいないので安心して遠出ができる。 ロイムも一旦旅を休止して戻ってきている為に、久々の一家揃っての団欒だった。

  子どもたちがはしゃぎ遊び疲れた頃、昼食をとるために車座になった所で傍の林がざわめいた。 まさかMobか!?と一同が身構えた先で、ひょっこり姿を表したのは人影だった。

“よぉ、アヴェン。手紙読んで、来てやったぞ”
“エシュさん!”

  アヴェンは呼びかけると、その人物を手招きした。

“なんだ、驚かせるなよ”

  ロイムも親しそうな相手ということで、子どもたちはきょとんとしている。

“俺たちの兄さんだよ”

  知らないのも無理はない、彼女らがまだ小さい時に一度会ったきりなのだから。
  彼の名前はエシュターV。ロイム、アヴェン両名の兄である。

“え、でも・・・・・・”

  ちぃの疑問はアヴェンの言葉によって継ぎ足された。

“あ、あぁ呼び方か。実はエシュさんとは一緒に暮らしたことがないんだ。交流自体は物心ついた頃からあったんだが、兄と知ったのは兵学校を卒業した時だったんだ。だから未だにこんな呼び方でね”
“面白半分に正体を明かさないでいたんだろ、単に”

  ロイムの辛口にエシュターVはカカカと笑って肯定した。 アヴェンは、自分の家族が増えた報告ついでに、忙しく飛び回る兄に手紙を書いてこのピクニックへ招待したのだった。

“それにしても、二人ともでかくなったなぁ。シレス、もこちぃ。それで、そっちの二人だな?引き取った娘たちというのは”

  言ってから、ノーブルレッドと祐菜に目を向けた。
  ちょうどその時、遊びつかれてノーブルレッドの胸にもたれ掛かって眠っていた祐菜がパチリと目を覚ました。

“あれぇ、エシュ先生だー”
“む。お前は祐菜!”

  二人は互いに驚き、目を見張らせる。

“なんだ、知り合いか?”
“ついこの前、特別指導官として一度、祐菜の学年の訓練の面倒を見たのだ”
“そうなの?祐菜っち”

  ノーブルが初耳とばかりに祐菜に聞くと、本人はまだ半分寝惚け眼のままこう答えた。

“エシュ先生はねぇ、パルック先生で、Lの人で、今度うちをラピュタに連れていってくれるんだよ〜”

  一瞬理解不能な単語が飛び出したが、アヴェンは最後の言葉に反応を示した。 祐菜は明るく天真爛漫な可愛い少女だが、少々夢見がちな節がある。 空のどこかにあるというラピュタ(不思議な古代遺跡)を信じているのだ。

“まさか………エシュさん…………こんな小さな子を誘わk”
“すまん……つい。お前の子だなんて知らなくてな………・・・………・・・………・・・って、ちがーう!!”

  神妙な顔で沈黙を保った後、全力で否定した彼は

“俺だってラピュタは信じている!だが、あくまで方便だ!ただの失敗を慰める方便!”

と力強く宣言した。

“へぇ……ほぉ………”

  あまり信用されていない冷たい視線が計7つ突き刺さるが、エシュターVはどこ吹く風で話題を転換した。

“そうかそうか、お前がアヴェンの養い子だったんだな。事情は聞いている。いつでもなんでも協力してやるぞ”
“ありがとうございます”

  ノーブルレッドが礼を言うと、祐菜もぺこりと頭を下げた。

“さて、じゃ、俺は行くわ”

  祐菜の頭をがしがしと撫でてからエシュターは立ち上がった。

“え?!もう?来たばっかりじゃないか”
“俺は一所に長く留まれない性質なのさ”

  引き止めるアヴェンをあしらって、じゃあな、と颯爽とエシュターVは去っていった。 つまり本当にただの顔あわせだったのだ。 弟たちは呆れるしかなかったが、子どもたちは強烈な個性を持つ伯父の存在を強く心に刻む一日となった。
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